真知子(後)

ブルジョア的環境からも身勝手で下劣な左翼運動家からも逃れた真知子は,ようやく曇りのない目で人間の真実を見つめられるまでに成長する。
「大石良雄」は弥生子41歳の作.この小説における大石良雄は世の定説となっている英雄ではない。
いかにも人間らしい, 屈折した家庭人大石良雄である。
「笛」は79歳の作。
夫の死後,身を粉にして働いて育てた子供が自分から離れていく−老いた母親の孤独を繊細な筆遣いで描いて,しみじみと読者の胸を打つ。
作家野上弥生子(一八八五―一九八五)は、夏目漱石の推薦で発表した小説「縁」で、約八○年に及ぶ文筆活動のスタートをきった。
子供を見守る母親としての暖かい愛情、同時代の文人・学者達との交流、一市民として社会の動きを捉える冷徹な眼――達意の文章二五篇を編年順に収めた本書を読むと、近・現代史を目の当たりに辿る思いがする。
道元についても、禅宗についても、「幼児に等しい無智」であった著者が、ふとした機縁でこの巨人の生涯と格闘することになる。
文献を渉猟し、自分の頭で読み解いてゆく――禅師七百回忌の「饅頭本」で終らせないためにも「見て来たような嘘」だけはつかない、と語る作家里見ク(一八八八―一九八三)の描いた道元禅師像。
有名な九州耶馬渓、青の洞門の伝説を小説化した『恩讐の彼方に』、封建制下のいわゆる殿様の人間的悲劇を描いた『忠直卿行状記』はテーマ小説の創始者たる彼の多くの作品中の傑作として知られている。
他に『三浦右衛門の最後』『藤十郎の恋』『形』『名君』『蘭学事始』『入れ札』『俊寛』『頸縊り上人』を収める。
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